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血みどろの報道「クライマーズ・ハイ」 [映画・TV・美術・文学の話題]

話題の映画「クライマーズ・ハイ」を鑑賞。
  
私は昨年のNHK版を観ていないし、
原作はさっき買ってきたばかりなので、
適切な映画評は書けないが、
それでもいいという方のみ、お読みいただきたい。
 
(ネタバレあり。未見の方はご注意下さい)
 

    
日航機が墜落したのは、1985(昭和60)年8月12日。

もう20年以上が経過しており、
若い人(30歳以下)には、
実感が湧かないシーンも多かったと思われる。
  
劇中で何度も出てきて、そのたびに
「うーん、そうだったかな」
と思っていたのが、電話機。
 
黒電話、なのだ。
 
ケータイはおろか、ポケベルもまだ
充分には普及していなかったはず。
(「ポケベルが鳴らなくて」が流行ったのは、1993(平成5)年)
 
この情報機器の格差が大きなポイントになってゆく。

抜きつ抜かれつのスクープ合戦。
その中で、今回は、道なき山中での取材。
弱小地方新聞社の「北日本新聞社」取材班は
無線機を持っていない。
 
いくらスクープをとっても、それを社に伝えるには、
麓の人家で電話を借りるか、
共同通信社の記者に頼み込んで無線機を借りるしかない。
 
今なら、恐らくノートパソコンを持ってって
パパパと送れるはずの記事と画像が
この当時、こんな苦労を持って送られていた。
 
主だった民家は大手新聞社に押さえられ、
共同通信の記者とうまく会えるはずもない。
そのため、佐山(堺雅人)と同僚が書いた記事が
締め切りに間に合わず、落ちてしまう。
 
また佐山の上司・悠木(堤真一)は
いきなりの事故発生のため、
待ち合わせていた親友安西(高島政弘)と連絡がつかず
その結果、安西は過労で倒れ、植物人間になってしまう。
   
そういうシーンを観るたびに
「あー、ケータイがあればなあ」
と思ってしまった。
 
あと、「ふくちゅう」や「おおくぼれんせき」と
いった単語が出てくるが、
これをすぐに
「福中(福田赳夫と中曽根康弘。どちらも群馬選出の代議士)」
「大久保連赤(大久保清事件と連合赤軍事件)」
とわかった人は、どれくらいいるだろう?
 
私のように原作もNHKも観ず、
ただ「オトコマエがいっぱい」という理由で映画を観た人は
やや苦しかったと思われる。
 
それでも、最後まで観られたのは、
地元での大事故を完璧に報道しようとする悠木の
ムチャクチャともいえる突っ走りへの共感。
 
輪転機を止め新聞の刷り上りを遅らせて、突っ込むスクープ。
上司と大喧嘩して突っ込む企画記事。
広告欄を全部削って記事を載せて、営業と大喧嘩。
とにかく、
「こんな上司がいたら部下は頑張るだろうな」
「こんな部下がいたら、上司はたまらん」
というところで、
かっこいいったら、ありゃしない。
 
そして、それに負けず劣らずかっこいいのが、佐山。

現場スクープを締め切りで落とし、
事故原因ネタを悠木の判断の躊躇から落とし、
それでも、まだ
「一面トップに乗せて下さい」
という特ダネを拾ってくる、執念深さ、粘り強さ、真剣さ。

本当のことを言うと、
悠木といい、佐山といい、無骨で一直線で、
正しくあらわすなら
「かっこいい」
という言葉とは、少し違うかもしれない。
 
でも、
IT社会へ移行する寸前の
人間くさい手順に、自分の想いが込められた時代、
熱く燃えた男たちへ捧げる言葉としては
やはり
「かっこいい」
が一番だろう。
 
中間管理職諸氏、時間があったらご覧あれ。
 





 


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コメント 8

しまうま

 こんにちは~。

 確かに、今みたいな便利な世の中に慣らされた社員なら、「こんな効率の悪いことやってられませんよ」で終わりかもしれませんし、「どうせネットの方が早いし」なんつって紙面に載らなかったことに腹を立てるような純粋な若手もいないかもしれませんね。

 私自身も若い頃は仕事の方針なんかで上司に腹を立てたものでしたが、最近は腹がたつことも少なくなったなぁとか思いながら見てました。う~ん…なんでだろな。あらゆることに諦めが早くなったのかな…。見切りが早くなったというか…。仕事に限らずいろいろなことに関してですが。
by しまうま (2008-07-21 13:14) 

rossi

あの事故は、おいらにとっても強烈なインパクトのあった事故ですが、よりにもよって題材がカスゴミだって事で、全く見る気無かったんですけど、まあ、テレビでやったら見ようかな?位には、おいらの中でレベルうpしました。レビューありがとうございます。

ひょう wrote:
> ケータイはおろか、ポケベルもまだ
> 充分には普及していなかったはず。

「自動車電話(先っぽがオレンジで黒いアンテナ)はあったし、ショルダーホンもあったんぢゃないかなあ?」と思って調べてみたら、

http://www.std-mcs.nttdocomo.co.jp/history-s/list_shoulder.html
> 電電公社の民営化の年1985年9月に100型が完成しました。

事故は8月、ショルダーホンは9月でした、残念。でも、これ調べて改めて思ったんですが、自動車電話は既にあったんぢゃないんすかね?確かに一般人には高根の花だった自動車電話ですけど、黒塗りのクルマは、みんな、あのアンテナつけてたんぢゃねーかなあ。

と思ったけど、あそこ、麓とは言え、ものすごい山の中なんですよね。実は、おいら、慰霊登山道の入り口に当たる(恐らく劇中でも取材陣が拠点にした村)を偶然に通りがかったことがあるんですけど、多分、当時の自動車電話の電波は、届いてなかったんだろうなあ…。

確かに、カスゴミとは言えカスゴミ業界こそ格差社会の最たる物で、そんななかで地方地元紙が四大紙やキー局カスゴミの圧政の元で、真実をなんとか伝えたいという、マスコミ本来の崇高な目的のために闘った、ってのは、そうなのかもな。

あ、なんか、見に行きたくなって来たw。重ね重ね、レビュー、ありがとうございました。

by rossi (2008-07-21 23:10) 

ひょう

しまうまさん、
そうそう、
「こんな効率の悪いこと」「こんな横暴な上司」
ばかりがゾロソロ出てくる映画でしたね。
でも、昔って、
結構ああいう過激労働、強引上司って
普通だったような・・・。
何となく、過ぎ去った時へのロマンを感じるのであります。


by ひょう (2008-07-22 01:16) 

ひょう

rossiさん、
崇高というか、
「俺ら、地元じゃけん、この事故だけは
 4大紙には負けられねえ!」
っていうプライドが全編を貫いていました。
途中で、遺族の方が編集部へ
新聞を買いに来るシーンがあるんですが、
遺族も「一番詳しいのは地元紙だろう」って
思っているんですよね。
それを知った記者が一層奮闘する・・・
そういうエピソードもあったりして。

しまうまさんのブログに、
しまうまさんによる、もっともっといい解説が
掲載されておりますので、
そちらもぜひお読み下さい。

http://shimauma.blog.so-net.ne.jp/2008-07-06

by ひょう (2008-07-22 01:21) 

kusii

世間では朝の忙しい時間、のんびり?とパソコンに向かってます

グッドラックの機長以来のかっこいい堤真一氏ではなかったでしょうか?

先週見ました
新聞社内の社員の立場とか、確執とかが見え、厳しい職場をヒシヒシ感じました

「おおくぼれんせき」には戸惑いました
時間が経つに連れ、やっとこの言葉理解できたのです
地元の新聞としては、滅多にない大きな出来事だったのですね

見終わったあと、映画のテンポが、あの浅間山荘事件を取り上げた映画に似ているな
成る程、監督が同じだったのです

もうじき8月12日がやって来ます
生存者がいたのは奇跡でしたね
by kusii (2008-07-23 06:51) 

ひょう

Kusiiお兄様、お久しぶりです。
堤さん、カッコよかったです。

もっとはやく救出されていれば
もっと多くの人が助かったのに・・・
落ちた現場(山奥)が不運でした。
by ひょう (2008-07-25 21:13) 

rossi

あそこに下ろしたのは、クルーの必死の操縦故なので…。ニューステや哲也の部屋で公開されたボイスレコーダーを元にしたフラッシュがあったよなあ、と検索したら、

http://www.nicovideo.jp/watch/sm767078

ニコ動ですが、そのボイスレコーダーを元に、MSフライトシムで再現した動画がありました。

正直、この映画に違和感があるのは、地上のカスゴミ屋の格闘を描くのなら、その前に、機中で格闘したクルーを描く方が先ぢゃね?と思ったのがあるので。

ちなみに、高畑機長は、イライラ戦争当時、故フセイン大統領が航空封鎖を宣言した際、日航内で救援機の機長に立候補した強者だったそうで…くれぐれも、この事故で生存者がいらしたのは、乗員乗客全員が「闘った」賜物だと、思います…合掌。
by rossi (2008-07-26 23:59) 

ひょう

そうですね、市街地に落ちていたら
さらに悲惨な事故になったことでしょう・・・。

ボイスレコーダーの奮闘ぶりは
胸がつまる凄まじさですね。
「パワー」「パワー!」の声が耳に残ります。

その機長さん、遺族の元に帰ったのは
歯4本だけだったそうです。
お嬢さんが写真を公開しておられました。
あらためてご冥福をお祈り致します。

by ひょう (2008-07-27 13:32) 

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